MediaMath株式会社
日本法人代表
富松敬一朗

 

 日本におけるコグニティブ・システム及びAIへの支出額は、2021年までに2016年の15.7倍に当たる2,500億円を超えると予測されています。この予測が示す通り、AIの導入はあらゆる業界で始まっており、それはマーケティング業界においても例外ではありません。これまで以上に賢く、効率的かつ消費者の立場に立ったマーケティングが必要となった今、AIはマーケティングを収益・売上に結びつける上で大きな可能性を秘めています。

マーケティングにおけるAIの位置付けは、「あったら便利」な機能から、「必要不可欠」な能力へと変化しています。インサイトの抽出や、構造化/非構造化データの解析をする際に欠かせない基本的な要件になっているのです。しかし、未だAI活用をどのように始めるかについては意見が分かれており、マーケティングにおけるAIの活用事例が求められています。

 

マーケティングにおけるAIの活用

マーケティング担当者は自社開発、他社との連携開発、あるいは既存のAI技術の統合などを通して、より優れたマーケティングの実現を目指しています。実際、AIは広告のターゲティングや顧客のセグメンテーションにおいて既に実用化されていて、あらゆるデータ変数に基づいて意思決定を行い、広告活動の最適化に活用されています。MediaMathの委託によりEconsultancy社が実施した調査結果によれば、米国の代理店、広告主、テクノロジーベンダーを含むアンケート回答者総数446人のうち、47%がすでにオーディエンスターゲティングにおいてAIを使用していると回答しており、将来AIを使用する予定であるとの回答は34%でした。  同様にオーディエンスセグメンテーションについても、45%が既にAIを使用している、35%が将来AIを使用する予定であると回答しています。

このAIの導入で注目すべき例のひとつがIBM社です。同社はMediaMathと提携し、「Watson Cognitive Bidder」を使用し、与えられた大量のデータから予測シグナルを抽出する、まさにAIドリブンの運用型広告マーケティングを開始しました。

AIを活用する会社として注目すべきもう一つの例は、UnderArmour社です。同社はIBM社のWatsonのAIを利用して、睡眠、フィットネス、アクティビティ、栄養管理などのトピックにおいて、実データに基づくタイムリーなアドバイスをユーザーに提供する「パーソナル・ヘルス・コンサルタント」を開発しました。これにより同社は、似たライフスタイルを持つ他のユーザーからのデータに基づいて、トレーニングメニューや栄養情報をパーソナル化させています。

 

AIの実用化

AIをマーケティングに取り入れるためには、さまざまな技術的検討、適切なパートナー企業の選択、消費者に対するデータ使用方法に関する透明性の高いコミュニケーションなどが要求されます。インフラストラクチャーがチャネル別にサイロ化されていたり、十分に統合されていない場合には、AIをマーケティング活動に導入する際に大きな壁となると思われます。

 

ポリシーの再確認

マーケティング担当者は、消費者にデータをどのように使用・保護するかを顧客に明示し、オプトインの選択肢を提供する必要があります。AIテクノロジーがどのように個人データに適用されるかについて消費者それぞれに理解してもらうことは、信用や透明性の向上に繋がります。消費者データの取り扱い、透明性、管理に関する自社ポリシーを確認し、新たに施行されたEUの一般データ保護規制(GDPR)についても準拠していることを今一度確認することが必要です。 

 

データに基づいた実践へのステップ

第一に、マーケターはデバイスの垣根を超えてユーザーを熟知する必要があります。そしてユーザーそれぞれに合ったオファー、製品、サービス、そしてコミュニケーションを提供するため、ユーザーの非識別非特定情報(Non-PII)を活用する必要があります。その第一歩として、全タッチポイントおよびデータセット間で共通した識別子を設け、顧客が統一見解を得られるようにすると良いでしょう。これについては、IAB(インタラクティブ・アドバタイジング・ビューロー)のDigiTrustなどが安全で、ユーザーを尊重した、スケーラブルな方法と技術を提供しています。

第二に、マーケターはテクノロジープロバイダーの協力のもと、ファーストパーティデータのクリーニングと系統化を行い、オンラインで使用できるようにデータのオンボーディングを行う必要があるでしょう。また、全データソースを一元管理できる統合テクノロジーを選択し、オーディエンスのきめ細かなセグメンテーション、そしてその最適化をリアルタイムにアクティベーションすることも重要です。

第三に、自社のマーケーティングテクノロジーとアドテクノロジーを繋げることが重要です。これにより、カスタマージャーニーの全過程を通してファーストパーティ、セカンドパーティ、サードパーティデータを利用できるようになり、顧客の理解を深め、時間の経過とともにその精度が高めることができるでしょう。IBM社のクラウドベースのUniversal Behavior Exchangeなどのテクノロジーは、他システムからのデータ統合に役立ち、顧客行動に対する総合的な理解が可能となります。 

 

適切なAIパートナー企業の選択

AIのパートナー企業を選択する際は、ルールベースの意思決定や自動化を超える、真のAI機能を備えたパートナーを選択することが重要です。ルールベースの意思決定では、今日のマーケティング担当者が処理するデータの大きさには対応できません。また、各業界での経験、顧客事例、テクノロジー統合に関する知識を持ったAIパートナー企業を選択することも不可欠でしょう。そして、選択したAIパートナーが消費者データの保護や倫理的なデータ使用に伴う責任を考慮し、消費者からの信用を裏切ることなくデータを活用しているか確認することも非常に重要です。

マーケティング担当者が大量のデータを収集し、そのデータを活用して各チャネルで消費者最優先のマーケティングを実現しようとしている今、AIは必要不可欠なテクノロジーとなることは明らかです。これをきっかけに、AIを使った真のマーケティング改革を検討してみることをお薦めします。